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ファンタジーちっくだけど時折暗い世界観/「グランド・ブダペスト・ホテル」感想

ずっと心待ちにしていたW・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』! 試写会は応募しても外しまくり、公開初日に行き損ね、2日目も予定が合わなかったけれど、3日目の今日にようやく鑑賞!


「グランド・ブダペスト・ホテル」予告編 - YouTube

ムーンライズ・キングダム」「ダージリン急行」のウェス・アンダーソン監督が、高級ホテルのコンシェルジュとベルボーイが繰り広げる冒険を、名優レイフ・ファインズを筆頭にオールスターキャストで描いた。ヨーロッパ随一の高級ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」を取り仕切り、伝説のコンシェルジュと呼ばれるグスタヴ・Hは、究極のおもてなしを信条とし、宿泊客のマダムたちの夜のお相手もこなしていた。ホテルには彼を目当てに多くの客が訪れるが、ある夜、長年懇意にしていたマダムDが何者かに殺害されてしまう。マダムDの遺産をめぐる騒動に巻き込まれたグスタヴ・Hは、ホテルの威信を守るため、信頼するベルボーイのゼロ・ムスタファを伴い、ヨーロッパを駆けめぐる。

映像美・音楽・ストーリーの小気味よさ、どれをとってもキュートでめろめろ。ジュード・ロウやマチュー・アマルリックやビル・マーレイなど、脇を固める俳優も個性的でとてもよかった。100分の間、夢のような時間でした。この監督の作品は『ファンタスティックMr.フォックス』と『ムーンライズ・キングダム』しか観たことがなかったのだけど、いずれも可愛らしくも毒のある世界観が本当に大好きです。

 

東欧の暗い歴史を反映

あまりにも良すぎて言うことが何もないくらいなのですが、今回特に素敵だと思ったのは、東欧の暗い歴史を、くどくもなければとってつけたようなものでもない程度に組み込んでいた点でしょうか。映画の舞台は「壮麗なアルプス山脈を臨む、ヨーロッパの東端の国、ズブロフカ王国」となっています。(公式サイトより)さらに引用します。

戦争が始まり、1930年代にはファシストに占領され、占領統治の21日目に独立国家ズブロフカは完全に消滅、その後は共産圏となった。圧政に泣く人々を、さらにプロイセン風邪が襲い、何百万人もの死者が出たのもこの頃である。

現在では、旧ズブロフカ共和国の国民的作家が遺した傑作小説「グランド・ブダペスト・ホテル」を読むことが、この地図から消えた国を知る唯一の手立てなのである。

戦争が起きた時代を反映しているので、全体的にはコミカルで明るくも、随所に暴力や暗さが散りばめられており、「夢のような映画」で終わらせないところが、何よりも作品の魅力を上げていたように感じられました。

さらに、実はこの映画、「グランド・ブダペスト・ホテル」なる小説の中で、作家が昔訪れたホテルの支配人に語られた彼の過去を回想するという、何重かの入れ子構造となっています。つまり、グランド・ブダペスト・ホテルの支配人が、昔自分がホテルでロビーボーイだった頃の話を、若き作家に語り、話を聞いた作家が後に本としてまとめ、その本を現代の若い女性が読む、という。なので、メイン登場人物は皆死んでいるし、かつて栄華を誇ったホテルももはやこの世にはないのですね。世は無常です。

鑑賞している間中、ずっとわくわくしていたけれど、最後に胸を締め付けるような切なさに号泣。

 

ちなみに特集やってた『ユリイカ』も購入。読み応えあってよかった!

 

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