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幼女サイコホラーサスペンス/校舎のうらには天使が埋められている

【5/13追記】

本日発売の7巻読了! これにてシリーズ2作目も完結ですね。あまりネタバレはしない範囲で感想を言うと、1作目のあいちゃんのサイコっぷりとミステリアスなストーリー展開が好きだったわたしにとってはやや物足りなさを感じましたが、さらなる惨劇を匂わせるラストで全て帳消しです。ぞくぞくしました。

わたしはマンガに関して、それまでの伏線が概ね回収されてさえいれば、最後がいくら後味悪かろうと満足なので、あの7巻ラストからまさかの「続編出ない」展開があっても良いと思います! それこそ浦沢の『MONSTER』みたいで素敵だわ~。

とはいえ、『校舎うら』はすっかり別フレの一大キラーコンテンツとなってしまったので、今後もだらだら続シリーズが出そうな予感ですね…。うーん複雑。

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もうじき『校舎うら』7巻が発売ということで、いったん『校舎のうらには天使が埋められている』についてレビューしようと思います。本作品はマンガ雑誌「別冊フレンド」(講談社)にて2011年9月号から2013年6月号まで連載されていた完結作品でしたが、人気のあまりか昨年12月から連載再開となりました。

校舎のうらには天使が埋められている(1) (講談社コミックスフレンド B)

校舎のうらには天使が埋められている(1) (講談社コミックスフレンド B)

 

漫画界、戦慄。衝撃のエレメンタリー・サスペンス!理花は引っこみじあんな女の子。やっとできた友だちとはなれ、赤ヶ瀬小学校に転校してきました。「新しい学校で、新しい自分にかわりたい!」と意気ごんできたものの、なかなか勇気をだせません。そんな理花に最初に声をかけてくれたのは、勉強も運動もできる、かんぺき美少女のあいちゃんでした。 「ようこそ4年2組へ!君も今日からぼくらの×××だ!」

「いじめ」がテーマ、と聞いて問題提起系ヒューマン漫画かと思いきや、衝撃のサイコホラーサスペンスでした。さすがすえのぶけいこ先生の名作『ライフ』を生んだ別フレ!!他の少女向けマンガ雑誌にできないことを平然とやってのける!そこにシビれry  「わんこ」にしたクラスメイトに無理やりドッグフードを食べさせたり、服を脱がせて写真を撮る「かいぼう」を行ったり…とどぎついイジメのオンパレードです。

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もはやサイコホラーサスペンス

イジメの首謀者でありクラスの独裁者「あいちゃん」は、頭脳明晰、スポーツ万能、一見かわいらしい天使のような女の子ですが実はとんでもないサイコで、浦沢直樹「MONSTER」のヨハンを彷彿とさせるような怪物です。クラスメイトどころか教師だって思いのまま。「わんこ」の涙も叫びも彼女の心を動かすことはありません。彼女のイジメには何か目的があるわけでもなく、ただ人が壊れていく様を見るのが楽しいのです。

そんなあいちゃんに対抗するのが、まるで某魔法少女アニメの黒髪美女を想起させる菜々芽ちゃん。

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彼女は白い悪魔に対抗する黒い騎士です。菜々芽ちゃんはあいちゃんがただのいじめっこではなく、人を殺すことだって厭わないサイコパスだと分かっており、どうにか教師たちに訴えようとしますが、この教師たちが悉 く 役 に 立 た な い。この手のイジメマンガって大人が本当に役立たずと言うか、それでまたあいちゃんの思う壺になっちゃうわけです。菜々芽ちゃんは大人の力を借りず、自分だけで戦おうとします。

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この菜々芽ちゃんは勇敢ですてきですね。ほれぼれします~。

自殺した女の子が命を絶つ直前に残した日記に謎が隠されていたり、あいちゃんの取り巻きの中に自殺の鍵を握る子がいたりと、この辺のサスペンス風味にもどきどき。「校舎うら」に「埋められている」という「天使」の謎についても、次々と明かされる事実に驚かされたり悲しまされたり…。ネット上ではわりと「わんこ」や「かいぼう」といったイジメのえげつなさが話題になることが多い「校舎うら」ですが、サスペンスマンガとしてなかなかの良作だと思うので、イジメマンガという先入観を持たれるのは損だな~って気がします。

 

 ※ここからネタバレあります。

心がゆれるとね、ゆらゆらって色がかわってとっても楽しいんだよ!

ラスト近く、あいちゃんはそもそも感情といえるものを持ち合わせていないことが明かされます。作中で「色」と表現されているものですね。感情、人間性、自我…といくつかの言葉で言い換えられそうなものです。「色」を持たないあいちゃんは、他人の心の「色」を見ることができました。

「わんこになった子の色」「わんこで遊ぶ子の色」…そして「さいごは同じ。みんな黒くなって消えちゃう」というのです。ただ、いくら追い詰めても決して色をくすませることがなかったのが菜々芽ちゃんでした。

あいちゃんは菜々芽ちゃんと交わり、彼女の「色」を手に入れようとします。色を持たない…つまり「何者でもない」彼女は「何者」かになろうとしたのでしょう。あいちゃんは感情を持たないが故に感情を持つ同級生たちを弄んで楽しんでいたわけですが、感情を持つ側の人間の代表である菜々芽ちゃんに対して、初めて人間らしい感情を抱きました。それは、羨望というよりは恋愛に近い感情でした。だから菜々芽ちゃんとの「交わり」で彼女は人間性を得ると同時に菜々芽ちゃんを自分のものにしようとしたのでしょう。

ラスト、手を繋ぐ菜々芽ちゃんと優ちゃんを見下ろすあいちゃんの姿からは、それまで女王だった自分を追い詰めた者に対する憎悪というよりは、菜々芽ちゃんをうばった優ちゃんへ嫉妬の炎を燃やしているようにも見えます。そうした意味で、彼女は最後の最後に、人間らしい「色」を手に入れることができたのかな、と思いました。

 本編完結後の新シリーズは6巻からです。中学生になった彼女たちのその後。

 

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