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アートをめぐる親子の確執/映画「ヴィオレッタ」感想

渋谷のシアターイメージフォーラムにて映画「ヴィオレッタ」を観て来ました!(昨日だったらドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤と写真家・花代のトークイベントまで参加できたのだけど…残念。

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映画『ヴィオレッタ』予告編 - YouTube


実を言うとわたしとエヴァ・イオネスコの出会いはけっこう古く、10年ほど前の『ケラマニアックス』というゴスロリ系の雑誌がきっかけでした。今思えばかなり貴重な、写真家イリナ・イオネスコのインタビュー記事が掲載されており、そこには幼い娘エヴァの写真もありました。彼女のぞっとするほど非現実的な艶めかしさと無機質さは、当時中学生だったわたしにとってもかなり衝撃的で「子どもにこんなことさせて大丈夫なの…?」と思いつつ「アートってこういうことなのか!」と妙に納得してしまうような説得力がありました。

拾い画をそのままここに転載するのはなんだか気が引けるので、Google画像検索のリンクを貼ります。ほんと、すごい艶めかしさ…。

irina ionesco eva - Google 画像検索

わたしは割と子どもが好きで、映画や本でも登場人物に子どもが出てくると「幸せになって欲しいな~」とか「この子の未来が明るいといいな~」と思うので、例えフィクションでも子どもが不本意な目に合わされてるシーンを見ると胸が痛むのですが、彼女の写真にはどうしてもそういう倫理とか良識を超えた芸術性を感じざるを得ないのです。(まあ、個人的には倫理や道徳に芸術が先立つとは思わないのですけども)

 

映画「ヴィオレッタ」は娘のエヴァ・イオネスコ自身が監督となって撮られたものです。映画を通して、エヴァがいかに母親の要求に応じて妖艶なポーズを取らされることにつらい思いを感じていたかがよく分かります。一方で、そんな母親が自分を彼女なりに愛していたということも分かっていたのでしょう。映画の終盤では、母親にもいたましい過去があったことが判明します。かといって、母親が娘のヌードを本人の意志に関係なく撮って出版して良いわけがないのですよね…。

ちなみに2012年には、エヴァ・イオネスコが母親相手に訴訟を起こして勝利しています。

仏女優E・イオネスコさん勝訴、「児童ポルノ」撮影で母親に賠償命令 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

詳しいことは分かりませんが、少なくとも映画を観る限り、エヴァもできることなら母親を愛したかったのでは、と思いました。母親自身の美しさや、彼女の生み出す芸術に対しても、認めているように思います。でないとそもそもこんな映画撮らないよね。

 

ヴィオレッタ」の救い

写真集「EVA」をめぐった芸術性と倫理のありかたがどうというよりも、映画「ヴィオレッタ」で描かれていたのは、ごく一般的にどの家庭にだって起こりうる親子の問題でした。最近では『母がしんどい』というエッセイマンガが話題にもなりましたが、母親から子どもへの愛は純粋で、深いものであることは間違いないのです。劇中、母は娘に「あなた、シャーリーテンプルみたいよ」と言います。彼女は自分の手で娘をシャーリーテンプルのような大スターにしてあげたかったのです。ただ、この手の親というのは、自分と子どもとが違う人間で、同じものを見て同じことを思うとは限らない、ということが分かりません。だからこそ、映画「ヴィオレッタ」の母親も「自分のアートを娘も理解してくれて、その上で撮影にも協力してくれるはずだ」と信じて疑わないわけです。

わたしはこういった関係になってしまった親子に必ずしも和解する必要があるとは思わないので「ヴィオレッタ」の救いは、彼女が母親の妄執にとりこまれず、最後に自分の意志を貫き通したところではないかと思いました。一方で母親の方はというと、現実にイリナ・イオネスコがその後もなんだかんだ作風を変えずにアート活動を続けていたところを見るに、タフに生きられそうな気がするんで、それほど思うこともなかったりしています。

エヴァ―イリナ・イオネスコ写真集

エヴァ―イリナ・イオネスコ写真集

 

ところでこの写真集だったと記憶していますが、高校生の頃にヴィレッジヴァンガードで購入したのに、すぐあとに友達に貸してそのまま借りパクされました。中古本でプレミアついててちょっと泣けます…。

 

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