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それは、すべてが生まれたセオリー/『博士と彼女のセオリー』感想

TOHOシネマズシャンテで『博士と彼女のセオリー』を観てきました! 平日に映画を観たのはいつぶりだろうか…。


映画『博士と彼女のセオリー』予告編 - YouTube

景気よく泣きました。

まあ、泣くだろうな、とは思って観に行ったんですが、それはもう、泣きました。こういった伝記ものって、うっかりホーキング博士についての前情報を仕入れちゃうと、どういう展開が待っているのか知ってしまうので、あえてウィキなどは見ず。もともと無知なので、ホーキング博士ALSを患った天才物理学者という情報だけで鑑賞。映画じたいはホーキング博士のわりと俗っぽい感じに焦点を当てて、病気の悲愴さよりも、人間らしさが際立っていました。

このキービジュアル、死ぬほど好きです。

映画は大半が実際にケンブリッジ大学で撮影されたものだとか。ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインは本作で2015年のアカデミー賞主演男優賞を受賞。誰が見てもオスカー納得の名演技でした。

 

何が「博士と彼女のセオリー」なのか?

あらすじはというと、天才物理学者のホーキング博士が、ケンブリッジ大学生時代に、同じ大学でアートと言語学を専門に勉強している学生ジェーンと恋に落ち、21歳でALSを発症してから、世界的にベストセラーにもなった『ホーキング、宇宙を語る』を出版するまでの半生を描いた物語。原題は「The Theory of Evrything」(万物の理論)。邦題では『博士と彼女のセオリー』。

実を言うと、浅学なわたしは「The Theory of Evrything」(万物の理論)が用語としてあること自体を知らなかったので、「すべてのセオリー」でいいやん、何で「ふたりのセオリー」にしちゃうねん、と思っていたのですが、「The Theory of Evrything」をそのままにしちゃうと物理学の専門用語になっちゃうからという理由が一つでしょうか。

わたし個人は『ソーシャル・ネットワーク』を何となく思い出してもみたり。


映画『ソーシャル・ネットワーク』予告編 - YouTube

実際のところは知りませんが、『ソーシャル・ネットワーク』では、マーク・ザッカーバーグFacebookを設立した根本の動機が、まるでハーバード大学の同級生・エリカと友達ないし彼女になりたかったから、であるように描かれていました。

『博士と彼女のセオリー』も似てる。ホーキング博士が、「時間」を追究するようになったきっかけが、スペイン中世の言語学を研究しているジェーンと、タイムトラベルの話をしたことであるように描かれる点とかが。

人類の発展や、宇宙の解明につながるような、ありとあらゆる研究や発明の、すべてのルーツがほんの些細な、個人的な感情に由来していたなんて、まさに人間らしくて、すてきじゃないですか。もちろん、実際には、もっと複雑な事情やバックグラウンドがあったりするもんなんでしょうけども。

 

目の前の誰かが落としたボールペンを拾ってあげたい

さて、映画終盤にさしかかる辺りで、ホーキング博士の『ホーキング、宇宙を語る』が大ベストセラーになり、アメリカの授賞式に呼ばれるシーンがあります。そこで博士は、予め用意された質問に対して意思伝達機械の音声で答えるシーンがあるのですが、一瞬、聴衆のひとりの机から、ボールペンが床にすべり落ちるのを目撃します。彼は、その間、自分が車いすから立ち上がり、階段を降りてそのボールペンを拾い上げる自分を夢想します。映画冒頭にもあった、ボールペンが落ちるシーンとかぶります。もちろん、立ち上がることなんてできません。

思い出すのは、『ライ麦畑でつかまえて』の主人公・ホールデンの有名な言葉。

僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ。(中略)ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。

白水社ライ麦畑でつかまえて野崎孝

意味は違うにせよ、気持ちとしては、ホーキング博士もホールデンのこの気持ちと似通っていたんじゃないかしら。目の前で、誰かが落し物をして、それに気づいていなかったら、拾い上げて渡してあげたい。身体の動かない彼が望んだのは、そういう単純なことだったのかなあ、なんて考えてみたり。あるいは博士の見たそのイメージは、自身の研究が、人類が見落としがちな大事なことを、みんなが気づけるように拾い上げるようなものだと感じた瞬間だったのかも。いろいろ考えてみるとおもしろいです。

時間が逆行するシーンとか、きっと細かいところで見落としてる箇所いっぱいあるだろうし、もう一回観てもいいなー。

 

というわけでとても満足!☆☆☆ 

あんまり関係ないけど、科学つながりで「このマンガがすごい 2015」にも選ばれた『ドミトリーともきんす』(高野文子)、ホーキング博士は出ないけど、湯川秀樹とか、中谷宇吉郎が学生として登場します。「物理や数学ってそもそも何なの?」な疑問の答えが何となく見えてくる。高野文子の柔和でシンプルな線のイラストがとても不思議な雰囲気。 

ドミトリーともきんす

ドミトリーともきんす

 
ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)

ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)

 

 

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